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    かけはし2021年4月12日号

ルラとPT以前の限界を抱えたままだ


 

ブラジル


ルラの有罪判決の破棄

課題は左翼のオルタナティブ

ジョアオ・マチャド/タルジア・メデイロス




 3月8日、ブラジルで世界女性デーに関係する声明や活動が山盛りになっていた中で、連邦最高裁(STF)判事のエドソン・ファチンが、ルイス・イナシオ・ルラ・ダ・シルバに容疑を向けた、ラバ・ジャト作戦の4件でとられたすべての決定をひっくり返した。こうして、まだ審理段階まで進んでいなかった他の2件に関する手始めの決定に加えて、元大統領に対する2件の有罪判決が破棄された。

有罪判決破棄の本当の理由


 同判事は、この取り消しの根拠は以下の理解にある、と説明した。つまり、ルラに判決を下した元判事のセルジオ・モロが裁判長になった第13回クリティバ(パラナ州)連邦巡回法廷には、先の案件に対する管轄権がなかった、ということだ。クリティバ巡回法廷の任務がペトロブラスにおける汚職に関連する事件の裁判だったからだ。そして、ルラに対する4件の嫌疑はこの石油企業には関係していなかったのだ。
 ルラは無実を宣言されたわけではなかった。つまりファチンは、それらの事件はブラジリア(連邦管区)巡回法廷で再開される、と裁定したのだ。他方でルラは、彼の政治的権利を回復し、ファチンの決定がSTF全員法廷で覆されることがなければ、また連邦管区法廷からの新たな有罪判決(そのための時間はほとんどないと思われる)がなければ、彼には2022年の共和国大統領選に向けた候補者になる可能性が生まれるだろう。
 ファチンはラバ・ジャト作戦ともっとも一体視された最高裁メンバーの1人だが、その彼の決定は全般的な驚きを引き起こした。とはいえ、ルラの事件はクリティバで審理されてはならなかったという議論は、疑問の余地なく正しく、法の観点からは疑わしい点はほとんどない(注)。ルラの弁護士は早くからこの点を何度と強調してきた。ラバ・ジャト作戦の検事たちと元判事のモロからなるグループは、彼らがメディアと「世論」から大きな支持を受けた時点で、彼らの「反汚職十字軍」の範囲を拡張しようと策謀を凝らしたのだ。
 ファチンの決定に対する当初の驚きが過ぎ去るや否や、それがラバ・ジャト作戦反対に向けられたものではなかった、ということがすぐ理解された。事実としてそれは、それによって得られた有罪判決とその遺産と思われているものを可能な限り保持すること、を目標としていた。
 問題の判事は、セルジオ・モロの行為を無効とすることと同時に、元大統領の弁護士が持ち出したもう一つの訴訟に進行はないだろう、と裁定した。つまりその裁定は、元判事自身が疑わしかった、つまり彼は、判事ならば備えていると想定されている公平無私を捨てて、ルラに有罪判決を行おうと意図的に行動した、と論じた。法廷の管轄権欠落を理由とした無効化は、判事の疑わしいふるまいを理由とした無効化よりもはるかに、ラバ・ジャト作戦の志気をくじかないための裁定だったのだ。
 批判者たちにとっては、ルラに嫌疑を向けた事件に込められた偏見はいつもはっきり見えていた。そしてそれは、2018年にモロがボルソナロ政権内で司法相を引き受けるために判事としての彼の職務から辞任した時、もっと多くの人々にも明白となった。

政治的陰謀の存在も露見へ

 2019年6月を起点に、モロとラバ・ジャトの検事たちにとって問題がもっと悪化する形で、テレグラム上の彼らの会話からハッキングされたメッセージが報道に漏れ始めた(ウェブサイト「インターセプト・ブラジル」経由で)。12月以後もっと多くのメッセージが漏らされた。モロと検事たちは、そのメッセージは偽だとは一度も主張せず、彼らには彼らの誠実さを証明する義務はまったくないと語り、それらは不法に入手されたもの、と言い張った。しかしながらそれらは、真実であるだけではなく、モロの極度の不公平さ、また彼と検事たちの行動の犯罪的な性質までをも示している。
結局、ボルソナロとモロ間の亀裂、そして2020年4月における後者の司法省からの撤退が、「ラバ・ジャト」右翼を切り裂いた。検事総長(大統領によって指名された)はラバ・ジャトに背を向ける行動を始めた。モロは、今もかなりの民衆的威信を保ちつつも、大きく弱体化された。このすべては、彼の「疑わしい」事態がSTFによって今後裏書きされる可能性をありそうなことにしている。
ファチンは、「指を失わない目的で指輪を放棄し」ようとしたが、うまくいかなかった。他の最高裁判事たちは、まさに翌日の3月9日、モロの疑わしい事態に関する審理の再開を決定した。そのうちの2人は疑わしい事態を支持する意志を示し、さらに先へ進んだ。すなわち彼らは、前判事と検事間には共謀と彼らの側の犯罪行為があり、ラバ・ジャト作戦は「この国史上最大の司法スキャンダル」となった、と言明した。この審理は終わっていない、そしてその結論に向けた日程もまだ設定されていない。

次期大統領選に大きな影響


ファチンの動機が何であれ、法の観点からは、ルラの有罪判決をひっくり返した点で彼は正しかった。そして政治的影響は巨大なものになっている。
重要なことは、ルラが有罪宣告され収監された時彼は共和国大統領候補者であり、世論調査の先頭にいた、ということを思い出すことだ。彼が選挙を闘うことを阻止されることなしにボルソナロが選出されることになる、などということはありそうにない。今やあらゆることが、2022年にルラが大統領選に立候補する、ということを示している。彼はそうだとは言わなかったとはいえ、3月10日に多くのメディアが取り上げる形で、ルラが演説しジャーナリストからの質問に答えたのは、ありそうな候補者としての彼の役割においてだった。
ルラは、法廷が彼の無実を認めたように見せることができた。しかし、ルラへの有罪判決破棄は無実を意味せず、この問題を扱ったセルジオ・モロの疑わしい事態に賛意を示した判事たちですら無実を言っていないのだ。彼らは単に、ルラは公正な裁判を受ける権利がある、と言っただけだ。
ルラはみごとな演説を行った、何よりも彼は、特にこの数週間にこの国で大きく悪化したコヴィッド19との関係でかつて以上に重大となったパンデミックとの闘いに関し、ボルソナロとは異なるグループにいるということを示した。これがあらゆるメディアが報じたことだ。
ルラは、犠牲者に哀悼を捧げ、物理的距離をとる方策、マスクの使用、ワクチン接種の加速化、の必要性を防衛した。彼は、これらすべての課題で間違っている、とボルソナロを批判した。この他にも彼は、ボルソナロにはこの国に対するヴィジョンも政府計画もないと語り、大まかな路線として彼自身の構想を明らかにした。
つまり彼は、彼が率いた政権を擁護し(ディルマ・ルセフには言及しなかった)、市場への全面的な服従を批判し(そして同時に、「市場」は彼を怖がる必要はないとも語り)、彼の観点で彼の政権を特徴づけていたものごとを繰り返した。それは、労働者の防衛であり、しかし同時に国のあらゆる部門への語りかけであり、資本と労働者等々との協調を推し進めつつそれらの間の理解を求めること、さらに経済的「発展」の追求、といったことだ。彼は、人々に銃の携行を奨励したとしてボルソナロを批判し、より良い武装が必要なのは警察と軍隊だ、と強調した。
ボルソナロと彼の皆殺し的、ウルトラ自由主義的、そして反民衆的諸政策との対照は非常にはっきりしている。しかしルラもまた、彼の以前の立場に付随していた諸限界をすべて抱えたままだ。つまり彼は、環境的崩壊と進行中の社会的・環境的諸矛盾に関する理解を全く示さず、ブラジルのような周辺的資本主義の開発に対する信頼の方を示し、貧しい者たちや黒人住民の大量投獄や虐殺に触れることもなかった。そして後者は、近年に強度を高めたものの彼の政権の下でもすでに存在していたのだ。
彼はボルソナロに対し非常に批判的だったとはいえ、彼を政権から取り除く唯一の道は2022年の諸々の選挙(大統領選挙や上下院選挙など:訳者)を待つことだ、と示唆した。そして左翼に、2021年にこの国でがっちりと固められるまでになった経済と公衆衛生の惨状を前に、受動的に待機するよう促した。これらの欠陥は、上述した彼の階級和解的アプローチに上乗せされたものにすぎない。

政治的一貫性の保持こそ決定的

 あらゆるメディアは、ルラが2022年選挙でボルソナロに対抗する最良の位置にある候補者として浮上した、と強調した。それ以上のこととしてボルソナロは、人口のほぼ30%の支持をなお確保しているとはいえ、2020年末以来――「彼の政権では最悪の時」――再度人気を下げ続けてきた。彼は、過半から拒絶されているとはいえ、依然決選投票に進む者のように見えている。
ルラが候補者になる可能性があるという事実は、政権をさらに弱め、極右に逆風、民衆諸部分に有利という形で、力関係の前向きな変化を表している。何人かのブルジョアジー代表者は、ルラを支持する可能性があると語るような立場を取り始めている。そして政権と連携している者たちも、特にパンデミックの悲惨な扱いに関し、方針を変えるようボルソナロに圧力をかけつつある。ボルソナロ自身も、打撃を感じているとの合図を多数示してきた。
ルラが再びところを得たことはまた、左翼全体にも影響を及ぼしている。そこには、PSOL(社会主義と自由党)のように、彼の政府に対しては野党だった部分も含まれる。
あらゆることは、近年の傾向――PT(労働者党)の後退(言葉の広い意味で最大の左翼政党であり続けているとしても)、およびPSOLの相対的な強化――が少なくとも短期的には今後逆転される、ということを示している。PTは新しい活力を得ることになった。加えてPSOLは今、2022年選挙では第1回投票からPTとの戦線に加わるように、との圧力を受けている。この問題はまだPSOL内で公然とした論争になってはいない。とはいえ、ルラ支持がそこで早くも代弁者を得ていることは確実だ(報道に向けたこの意味での言明を諸々伴って)。
ルラを軸とした戦線は「左翼戦線」とはならないだろう。ルラははっきりと、ボルソナロとの結びつきが最小のブルジョア諸政党内部に支持を求めている。またそれは確実に、労働者階級と社会の抑圧された諸層内部の戦線にもならないだろう。それこそが、この考えの取り入れがPSOLにとって極めてひどい過ちになると思われる理由だ。それは、その創立以来の多くの困難にもかかわらず、階級協調に批判的な左翼勢力として党が得てきたものの、また党が発展させてきたものの多くを、失うことを意味するだろう。
確かにボルソナロ打倒は次の選挙における主要な目標だ(それ以前に彼の政府を終わりにすることがあり得ない場合だが、しかしその打倒闘争こそ放棄されてはならないものだ)。よく知られた問題すべてにもかかわらず新たなルラ政権は、民衆諸層が苦しんできた右翼の攻勢と攻撃に対する首尾一貫したオルタナティブにはならないと思われるとしても、ボルソナロの恐怖の後では大きな安堵にはなるだろう。
しかし選挙は2回投票制であり、ルラは確実に、何らかの大きな方向変化を封じつつ、第2回投票に進むだろう。
したがって、2022年大統領選挙の第1回投票に独自の候補者を出し、党が第2回投票に達しない場合に反ボルソナロ候補者支援を議論する、ということが、ブラジルの社会主義左翼の党構想としてのPSOLにとって、重大かつ決定的だ。これはまた、PSOLの生き残り、およびブラジル国会内にPSOLが確保している制度的な空間の維持を確実にするという点でも、本質的になる可能性もあるだろう。
ブラジル情勢は、ルラへの有罪判決破棄をもって大きな変化を遂げた。右翼は弱体化し、一方PTははるかに強くなった。ボルソナロの選出に決定的だった司法のクーデターは打ち破られようとしている。明らかにこれは、社会主義左翼によって歓迎されるべきことだ。他方この左翼は、高まる圧力の下にも置かれようとしている。つまりそれは、その社会主義的な構想を支えるために、一層の政治的な首尾一貫性を必要としている。(2021年3月15日)

▼ジョアオ・マチャドは、PSOLの創立メンバーの1人だったが、現在PSOL内国際主義潮流、コムナの1員、第4インターナショナルメンバーでもある。
▼タルジア・メデイロスは、PSOL書記長でフェミニスト運動内で活動している。また、ブラジルの第4インターナショナル組織であるコムナの全国調整委員会の1員。
(注)ラバ・ジャト作戦は、広大で行き当たりばったりに広がる汚職捜査で、連邦警察により遂行された。そしてそれは、公式には2021年2月にやっと終わりにされたとはいえ、2014年から2018年までブラジルの既成政治エリートを揺さぶった。そこでは、1000件以上の捜査令状と逮捕令状の発行が行われ、結果は、元大統領、閣僚、知事、などの全主要政党の有力政治家、また国でもっとも裕福な事業家の何人かに対する有罪判決となった。捜査は最初、政治家や他の事業家に賄賂を払うための、国家管理石油企業のペトロブラスからの資金横領に集中した。その後それは、ブラジル最大の建設会社数社、2016年オリンピック、さらに数十の他の企業を巻き込むものへと広がった。それは、捜査判事のセルジオ・モロとクリティバ市に本拠を置く彼のチームによって率いられた。その名称は、資金のいくつかを流すために利用された洗車(ラバ・ジャト)に由来していた。元大統領でPTのルイス・イナシオ・ルラ・ダ・シルバは、主なラバ・ジャト捜査とは間接的な関係しかなかった2件で有罪判決を受けた。彼は、いくつかの建設会社から、契約でそれらを助けたことの見返りに贈り物を受け取った、として起訴された。証拠は薄弱だった。彼はその容疑をきっぱり否認し、彼の支持者同様、ラバ・ジャト捜査は彼が再度大統領選に立候補することを阻止するために操作されようとしている、と主張した。(「インターナショナルビューポイント」2021年3月号)


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